サザエ飯

サザエ
                                                     

次回、春待ち小正月に、佐々木さんの郷里の隠岐の島の郷土料理ーさざえ飯ーを造ることになりました。

島で佐々木さんの兄さんが採った、ノリで巻くと言うので小正月に打ってつけと思います。小正月は女正月

で、昔から男たちが料理をしたり、造り置きが出来るすしなどを沢山造って女達を一休みさせる日だったと

聞きますから。さて、さざえ飯を本で調べると、生のさざえを入れて醤油だけで炊きあげるとあります。先ず

はレシピ通りに炊いてみました。

米2カップ
サザエ5個
醤油

コレだけです。

早速、佐々木さんに食べていただくと、コレはフェリーで食べる味だ、という事です。そう言えば誰もが、ああ、

帰ってきたと胸一杯磯の香りを吸い込んで思うあの味です。私にとっては瞬時に伊豆の安良里の浜辺、若か

った日々飛べそうです。佐々木さんがお母様の炊きかたを電話で聞いてくださいました。次回は、それで。

                                                             1月29日

垣根越しのブリ 

 

 


臭いはデジャビュウの道具建の一つだという。ブリのアラで粕汁を作ると決まって浮かんでくる景色

がある。    岡山の山あいの小さな造り酒屋の娘だった母は冬になるとよく粕汁を作った。 当時暖か

い静岡ではブリのアラを食べる習慣はなく、只同然で魚屋から貰って塩漬けにすることからはじまる

粕汁は珍しい食べ物だったようだ。       私の遊び友達だった隣家の雅之ちゃんは、小児マヒで家に

籠もりがちな少年だった。私達はいつからともなく、槙の垣根越しに向こう側とこちら側で一人遊びの

ようなママゴトをした。

透き通るような冬の空気の中一筋漂ってきた粕とネギの臭いは、子供ながら引き寄せられるような

温かさがあった。湯のみに少しの汁と骨をもらってママゴトの続きでたべた。始めてこちら側で見る

少年の薄い皮膚の鼻の頭のけし粒ほどの汗の玉と、小さく笑った笑顔は、粕汁なのだから寒い日に

違いないのに、なぜか、戦時中、小春日和、ひだまりの映像として私の海馬にしまい込まれている。

                                                 2006年12月17日

月見の宴奮闘記

それは、包丁から始まりました。刀剣作家の藤原良明氏に研いでいただけることになった、刃渡り

20センチと15センチの出刃、柳葉包丁などを見て、方方亭の吉田まりさんが、お造りはお前だ、

と宣告した時、やれたらいいな。やってみたいな。やってみようか。と頭の中でピュピュと3段跳ね

あがりました。

試作会、お試し会、等々7月から10月まで殆ど毎日、大小いろいろの魚でお造りをしました。大根

もシイタケも、カボチャも、コンニャクもお造りにして、盛り付けて食べる毎日です。

そして、9月のある日、方方亭で一席のお造りを手伝う機会を頂きました。その日は下拵えからうま

くゆきませんでした。手ばかり切ります。3枚におろした骨にたっぷりと身がつき小骨は残ってい

るのに身が薄くなってしまい、よろよろにしてしまうタイ。昨日まで、ノルと鼻歌まで出てきたのに。

そして、ついにお客様の声が聞こえる時間になり、またたく間に幹事さんのあいさつが始まってい
ます。

その頃になると、マグロは切るそばからすき身のようになってしまいます。

包丁がむやみに筋にすべります。耳の横を汗がすっと落ちていきます。皿に盛り付けると疲れた人

の姿のようにぐったりしています。まりさんの手で造り直して事なきを得ました。

背中が汗で冷たく感じます。文字通りほうほうの体で逃げて帰る途中の温泉で、出来ると思った自分

の思い上がりと、ボロボロのマグロが重なって、惨めでした。

静岡で時たま顔を出す寿司屋のカウンターで、魚のレクチャーを願ったのは私にとってごくごく自然の

流れでした。

魚の仲買人達が贔屓にするその店、田中屋さんのご主人の目で選び、下拵えした魚で本番を乗り超えた

今、私の前に、残り99%のお造り道が残っています。

それにしても、刃物は不思議な力を持っていると思います。

数少ない母の持ち物が、なぜあの時期私の目の前にあったのか。研いで頂いたく事になった偶然と、食

と器の会が同時期に起こった事。料理に私の気持ちが動いたことなど、刃物は本来の持ち主の気持ちを

しっかり残すという数々の物語を思い浮かべながら、久しぶりに母の思いに寄り添った、張りのある日々を

送ることが出来ました。
                                                       06・11・3日
                                                       大蝶 恵美子

魚をさばいている大蝶さん

試作の様子

お造りの試作品

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